猫と共に作る秘密の海老芋
海老芋を美味しくと、独自の方法で作り上げた福井さん。猫と共に歩み続ける海老芋のエキスパート。
海老芋の福井さんという愛称が私の中ではしっくりとくる。福井さんは京丹波町で数少ない海老芋の生産者です。大量の海老芋を栽培しているいのではなく、限られた農地で自身のこだわりを持ち栽培されています。
福井さんとの出会いは、同じく京丹波町で堀川牛蒡を栽培されている新田さんからのご紹介でした。堀川牛蒡の生産も珍しいけど、海老芋を育てているもっと珍しい人おるよ。会ってみる?と、牛蒡を掘りながらご案内を頂いたことを今でも鮮明に覚えています。堀川牛蒡を掘ったあとそのまま福井さんにお会いしに行きました。その時は、まだ海老芋の収穫には1か月程早い時期だったので少しお話だけさせて頂きました。福井さんは元々京都市内で料理人を10年ほどされていました。ご実家のお父さんが農業を営まれていて、その農業を休みの日に手伝い始めたのがきっかけなのですが、お父さんの作業を手伝っているうちに、もっとこう工夫した方が良い作物が出来るのではないかと、色々工夫し始めそれが収穫に反映され始め農業の面白さに惹かれ農業をすることになったと。農業を始めてから10年程が経っていますが、農業初心者だった福井さんは色々な災難に出会ったと笑いながら話されていました。その中でもひときわこだわって栽培したのが海老芋でした。
海老芋の畑 海老芋の一株を近くで見たところ
2回目に訪れた時は、海老芋の収穫。実際に海老芋ついて多くのことを学ばせて頂きました。一言海老芋と言っても、部位や出来上がる形によって様々な呼び方がありました。親芋、子芋、種芋、セミ芋、丸芋と、そして小さく親指程の大きさでついているのが、小えびちゃんです。福井さん曰く、小えびちゃんは皮ごと揚げるととても美味しいと。
掘り上げた海老芋の固まり。大きな海老芋に幾つも子芋がついている
海老芋の種イモの確保の仕方は生産者それぞれで、ここも福井さん独自の方法がありました。ちなみにJAから教えてもらった方法は、多くを腐さらせることになり間違った情報だと。そして栽培中に起こる根腐病。これは根を茶色くして根っこが無くなる、海老芋の独特の病気とのこと。この根腐病が起こるとその畑では連作障害が起きて、海老芋は数年栽培することが出来なくなるそうです。なので生産者がとても神経をとがらせているそうです。そこも、また福井さん独自の方法がありました。海老芋を立派に育て上げるには、質の良い種芋の確保、根腐病を起こさない、中心の可食部を大きくするための土の動かし方、雑草もある程度大切、そんな様々なことを重ね合わせて、福井さんの立派な海老芋は完成します。
海老芋の収穫前。盛り上がり具合で掘る事を決める 一気にユンボで底から掘り上げる
しかし福井さんは、きちんと使ってくれる人にしか売らないと、はっきりとおっしゃいました。それだけ愛情のこもった海老芋。今は、某ホテルのシェフが農地を見学に来て直接交渉で買われ、その味に惚れ込み毎年時期には購入されているそうです。
掘り上げた海老芋の土を丁寧に落としながら海老芋を分けていく 収穫仕立ての海老芋 海老芋についた土を丁寧に布でふき取ると海老芋の模様が見える
そしてまた福井さんのユニークなところが、猫とともに農業を営むです。小屋や周りには猫が沢山いました。福井さんはこの子達(猫)こまんねんと言いながら、餌も上げて可愛がっています。そしてこの猫の凄いお話を聞きました。火事になるのを防いだ猫です。
小屋の中にいる沢山の猫達
いつもならば行かない時間に小屋に戻り用事を済ませ戻ろうと思った時に、猫が珍しく車の所までついて来て、ニャーニャーと騒ぎ立てたそうです。そして小屋に戻れと言わんばかりにニャーニャーと。不思議に思った福井さんは、小屋に戻ったら、電気コードの線から発火していて猫も手でパンパンたたいて消そうとしていたそうです。危うく大惨事になりそうなところをこの猫達に助けられたと。ほんと不思議な話です。でも海外では、動物も大切な役割を持って農業を繁栄させている事例もあると聞いたような記憶があります。
見守る猫
こんな、ユニークな福井さんと猫のこだわりの海老芋。私も食べましたがその味はとても美味しかったです。数少ない海老芋は愛情をもって料理をしていただければ絶品のお料理になること間違いないと思います。是非、この海老芋を食べてみてください。
2022/11 現在
文:金森幸子