海に近い酒蔵【伊根満開】

舟屋の郷に根を張る造り酒屋です。古くからの手法にこだわりつつ、現代料理との相性を追求しています。

現代料理との相性を模索する向井酒造

京都府北部の東側に小さな漁師町、与謝野群伊根町という町があります。
この町に、由緒ある小さな酒蔵があります。また、日本で一番海に近い酒蔵とも言われており、ここの酒蔵の杜氏は女性です。名前は向井久仁子さん。
私と久仁子さんとの最初の出会いは、京丹後市弥栄町にある縄屋さんという地産地消のとても素敵な和食割烹のお店で、お客様として食事をしていた時の事です。
お隣からとても元気で楽しそうなお声が聞こえていました。私も気になりチラチラと見ていましたら、なんと久仁子さんが、日本酒はお好きですか?とお声がけ頂いたのが、ほんの小さなきっかけでした。
その些細なきっかけから伊根町の向井酒造女性杜氏という事を知り、早速向井酒造さんにお話を聞きたく出向くことになったのです。

向井酒造さんの歴史は古く、江戸時代中期からこの伊根町の地でお酒を造られていて創業266年になりこの土地で歴史を刻まれてきた酒蔵さんであることにまず驚きでした。

久仁子さんが酒造りに携われたのは約26年前。若干23歳の時だったそうです。そしてその頃では珍しい女性杜氏として酒造りに励むことになられました。
私が何よりも惹かれたのは、久仁子さんのお人柄です。天真爛漫で、笑顔の絶えないとても素敵な女性です。この久仁子さんが造るお酒はどんなお酒か。非常に気なりました。

鮮やかな赤色の日本酒【伊根満開】

向井酒造さんの地下の200~250メートル下には、水源がありその水の性質がとても良いとのこと。酒蔵が奈良の水質に似ていると言われていました。その水を使用して作る日本酒。
地元をこよなく愛する久仁子さんは、伊根町で特別栽培した古代米(紫黒米)を原料にして【伊根満開】という、色鮮やかな赤色の日本酒を造られました。甘酢ずっぱさのあるこの【伊根満開】は、今までにない女性杜氏さんらしい日本酒です。
他にも地元の原料を使用された日本酒で【世屋のひとやすみ】お酒もあります。伊根町より西側の山間部にはいった上世屋という地域で栽培された、無農薬有機米を使用されています。

新しい中から昔の良さを知る、または昔の良い手法から新しいもの作り上げる。簡単なようで難しい。しかし、昔ながらの生酛(きもと)仕込みで久仁子さんながらの手法でお酒を作っていきたい。「万人受けする酒造りは止めて、自分達の造りたいお酒を造る」とおっしゃる久仁子さんは素敵でした。「大きなこだわりはないですが、それがこだわりです。」とも。

新たな日本酒を次の時代へ

久仁子さん、弟さんの崇仁さんの、日本酒に対するこだわりは、熱燗で飲むこと。
向井酒造さんのお酒は素朴なので熱燗向けとのことで、お二人の燗酒を好む度合いもまた格別です。燗酒を、レモンや山椒、スパイス等を入れてブレンド燗にしても美味しいと熱燗の良さを楽しくお話して頂き、熱燗ブームがふつふつと世の中に来ているとも・・・。
こんな素敵なお二人が、先代から伊根町の地でお酒造りを引き継ぎ、そしてまた次の時代に新たな形の日本酒を残していきたいという思いを閉ざすことがないように繋いでいってほしいと強く願います。

追伸
向井酒造さんのお酒は、熱燗だけでなく冷酒でも美味しくいただけます!

2022/9/10 現在

文:金森幸子