ひさみのへしこ【至福】
海のブランド「間人」。この地の食文化を未来につなぐ「へしこ」名人の目利きでツナガル海鮮たち。
へしこは何なのかはご存知かと思います。青魚にたっぷり塩をして、米糠で漬け込む、いわば魚の糠漬け。心地よい発酵が生み出す香りが魚臭さを完全に打ち消し、ほどよい塩分が食欲をかき立てる若狭周辺に根付く保存食です。このへしこを、非常に独特な視線で製造し続けている店舗があります。
京丹後の間人にある「ひさみ」がそれです。元々地域に根付く洋食屋さんが郷土への恩返しと営み始めたこのへしこの製造販売事業。今では人気のブランドに成長しました。
ひさみのへしこの考え方
その美味しさの秘訣は何といっても元来、西洋料理出身の料理人という独特の感性に由来します。古来からのへしこは単純に米糠と塩と魚でしたが、それだけでは現代人の味覚に合いません。むしろ塩辛いと毛嫌いされる可能性があった食品です。この保存性を弱くすることなく、味を調えることは料理人にとってさほど難しくはなかったと推察します。と言いますのも、洋食料理人の世界では上手にアルコールを操る技を持っていて、これをへしこに応用すれば保存性を下げることなく風味をつけられるというところに目をつけたのだと思います。
間違いなくその技は真っ当な結果を残して「ひさみのへしこ」として生まれ、成長してきました。(写真①)
写真①米ぬかに漬け込まれたへしこ。じっくりと熟成されると旨みが増す。 写真②へしこをサッと炙る様子
薄く切ってそのままでも美味しいのですが、さっと炙る(写真②)とご飯にもお酒にもよく合います。(写真③)
写真③焼き上げたへしこ。そのままでも薄く切っても美味しい。 ほぐしてお茶漬けにする
右/ほぐしてお茶漬けにする
筆者のおすすめは焼いた餅の上にのせて食べること。もち米の焦げた香りが、独特の香りをともなった美味しい「ひさみのへしこ」と最高のシンフォニーを奏でます。
料理への応用については、すそ野が広がっているこの「ひさみのへしこ」。
京都・丹後を強く感じる素材としてご使用いただきたい逸品です。
追記 こっぺの話
ひさみのご主人は、元々洋食のご出身で腕には定評がありましたが、地域のためにと作った海鮮丼が人気になって、今ではメニューブックに洋食料理と海鮮料理が並びます。日本海の美しい景色を見ながら食べるから美味しいのは当たり前なのですが、そんな環境がなくてもこの海鮮丼は見事。何が見事なのかというと思いやりにあふれているからです。東北や北海道で有名な海鮮丼は必要以上の盛り込みで「映え」を狙っていますが、ここは全くの逆。食べやすいことを中心に魚の種類をコントロールし、そして地域性を感じさせながらも全国どこででも通用する味に仕上げているからです。(写真④)
この細やかな心配りが生きているのが、ひさみの「こっぺがに」です。こっぺがにの食べ方は茹でてその内子(内臓卵)のねっとりを楽しむことですが、手間なのは細い脚から身を取り出すこと。その手間をたっぷりとかけて、美しく殻に盛り込んだこっぺがには秀逸の仕上がりです。(写真⑤)基本的に業務用としては販売していませんが、特別なルートであれば可能。まさに早い者勝ちです。
写真④ひさみの海鮮丼 写真⑤ひさみの丁寧に処理されたこっぺがに
2022/10 現在
文:中村新
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