日本を代表するジビエ
日本のジビエ文化を育む代表的存在です。山の恵みを愛し、料理人に野生からのメッセージを伝えます。
西洋料理の世界にとどまらず、最近では様々な食シーンでジビエという言葉を耳にするようになりました。ジビエとは野鳥獣の総称。欧米では紳士の社交場として狩猟が珍しくないため、むこうでは比較的身近な食べ物です。ところが、日本では野山料理では見られたものの、一般的にはあまり広まっていませんでした。理由は様々ですが、独特の臭みなどネガティブなことが考えられます。もっと簡単に言うと牛肉や豚肉など食べやすい肉類があまりにも手軽に買えるため、貴重な山の幸を有難いと思わなくなったことが要因だと思います。
以前、愛知県新城市で道の駅をつくる事業に携わったことがあるのですが、その際、獣害対策として「イノシシラーメン」をやろうということになり、信州でフランス料理店を営んでおられた藤木シェフに相談したことがありました。藤木シェフは山の幸をきちんと食資源としようという取り組みをずっと継続され、現在一般社団法人日本ジビエ振興協会の代表理事の職に就かれておられますが、その間に流した汗はどれだけのものだったろうと、そのご努力の積み重ねは想像するに余りあります。その際、藤木シェフが「日本ではまだジビエの処理施設が少ないため、皆なで応援して安全を担保できるようにしつつ、しっかり山を守りたい」とおっしゃっていました。それから10年あまり、徐々に本格的なジビエ処理設備がそろい始め、いよいよきちんとした食肉として世に広まっています。
アートキューブさんの国産ジビエ認証第1号を取得した施設
株式会社アートキューブは、Uターン、Iターンの方々向けの不動産情報を提供することが主ですが、ご主人が無類の狩猟者(ハンター)であることと、獣害対策もあり、ジビエの資源化に踏み出され、とても優秀な処理施設を作られました。そこは正に食肉加工場と同じく、厳しい規則の下で管理されていて、衛生安全面は申し分ありません。
アートキューブの従業員の皆さま アートキューブの代表者の垣内さん
ジビエの処理はその昔、決して衛生的ではありませんでした。例えばイノシシ。鉄砲で仕留めたらお腹を開いて川の中に入れ、一晩かけて自然洗浄したものを解体していました。今ではそういうことは衛生環境上許されません。よって、様々な見地から、結果としてとても鮮度を重視することでジビエは歩み始めます。今では、罠にかかった鹿やイノシシは素早くさばいて各部位に分けられ、それぞれ出荷されます。特にアートキューブのジビエは処理能力の高さでは日本トップクラス。京都府下のシェフたちからのリクエストも多く、正にジビエのエキスパートです。
プロのジビエハンター 狩猟の様子 血抜きをされたジビエが最初に運ばれる場所
滑車で、ジビエを運ぶ。ジビエは吊るして保管する。(冷蔵庫の中) 衛生管理が行き届いたところで梱包作業を行う
ジビエたちも生き物です。むやみに殺したくはないというのが本音。人間と獣の境目を丁寧に築くことも大切でることを十分に理解されたアートキューブ。これからも美食家の満足を作りあげることでしょう。
2022/9/10 現在
文:中村新